- 2021年10月31日
抗菌,殺菌,滅菌,減菌,静菌,除菌,の違いを解説
2020年に世界的大流行したウイルスによって、手や手の触れる場所などの消毒が当たり前になりました。
アルコールスプレーなどの消毒は、今現在付着している細菌ウイルスなどを殺菌するために吹きかけていますが、元々付着した細菌が繁殖しないように加工を施しているものもあります。俗にいう「抗菌仕様」というものです。
抗菌仕様は意識していないだけで、実は相当な数が身の回りにあります。
・お皿やコップといった食器類やまな板、スポンジ、洗面器、手袋などの日用品
・エアコンのフィルターや、洗濯機、掃除機、空気清浄機といった家電製品
・床材、タイル、壁紙といった建材、ボールペンなどの文房具Tシャツなどの衣類などなど
もはや触るもの全てが抗菌仕様となっている勢いです。エスカレーターの手すりにも抗菌マークがついていますね。
ところでこの抗菌とは、一体どんな仕様なのでしょうか?
抗菌仕様とは
抗菌とは、「抗菌仕様が施されている製品の表面上においてのみ、菌の繁殖を抑制する」という効果のことを言います。
あくまでも、製品の表面上のみ菌の繁殖を防ぐという効果なので、食べ物を「抗菌仕様の容器に入れたから安心安全」というのは間違いです。
抗菌加工の面に触れていない部分は、普通に菌の増殖が進みます。
カビを防ぐことはできない
「菌」と聞くと我々は、とにかく目に見えないほど小さな微生物、という程度の認識しかないと思います。
一口に「菌」といっても、分類学上では様々な系統に分かれます。ただ、本記事ではそういうアカデミックなことは置いておき、ザックリと以下の2分類だけ覚えてもらえれば大丈夫です。
菌類(真菌)・・・キノコやビール酵母、カビなど
この2つは似て非なるもので、全く別のグループになります。そして、抗菌仕様が対象としている菌は、細菌と呼ばれるグループのみです。
実はカビには効果がないので、抗菌加工が施された製品の表面が、カビることは起こりえます。
ただ、食中毒の原因菌の増殖は抑制できますので、食中毒を起こす可能性は低くはなります。が、先ほども申し上げた通り、表面上のみの話なので、過信は禁物です。
衣類などの洋服の抗菌仕様は大変画期的なものです。通常、人が汗をかくと菌が増殖し、その菌が不快な臭いを放ちます。
これが体臭の原因のひとつですが、抗菌仕様ならば、それを防いでくれます。台所用のスポンジも同様ですね。
カビを防ぐなら防カビ
抗菌は「細菌」の増殖を防ぎますが、カビ(真菌)には効果がありません。
逆にカビ(真菌)の増殖を防ぐ加工を施したものを「防カビ加工」と言います。防カビ加工は、真菌のみをターゲットにしています。
とはいえ、カビは現在確認されているだけでも8万種類を超えており、防カビ加工と言えども全てのカビを防げるわけではありません。
数種類しか防げないものから、数十、数百のカビを防ぐものまで様々です。
ちなみに、消毒ジェルやアルコール消毒のスプレーは、塗った瞬間の殺菌に用いられるもので、効果は持続しない為、ドアノブやまな板など菌が繁殖しやすいところに塗っても、抗菌防カビ効果は付与されません。
ただ、近年発売されているお風呂の防カビ燻煙剤は効果的ですね。私は愛用しているのですが、本当に2カ月近くカビの発生をしっかり抑えることができ、重宝しています。
ずっと清潔さが維持されるわけではない
抗菌仕様が施されていると、菌の増殖を防いでくれるため、洗ったり洗濯しなくても、ずっと綺麗に清潔な状態を保ってくれると思ってしまう方もいらっしゃるかも知れませんが、
あくまでも表面上の細菌の増殖を防ぐだけなので、ついた汚れやホコリなどを浄化する効果はありません。
そしてホコリなどが付着すれば、ある意味ホコリ汚れでコーティングされているようなものなので、抗菌の効果は一切発揮されなくなります。
菌の繁殖を防ぐのは、先ほど申し上げた通り、抗菌仕様が施された面だけだからです。
抗菌の仕組み
では、抗菌された製品は、どのような仕組みで菌の増殖を防いでいるのでしょうか。いろいろな素材が抗菌材として使用されていますが、「有機系」と「無機系」に大別されます。
有機系とは、アルコール消毒など
無機系とは、銀や銅などの金属を利用したものを指します
今は安全面の配慮と高い抗菌効果から、銀が多く使われています。「Ag+」という表記がされているのを、目にするかと思いますが、それが銀を使っているマークですね。
正確には、銀イオンを指します。
抗菌加工された製品の表面からは、銀イオンが微量ずつ染み出しています。そこに細菌が付着すると、銀イオンが細菌の細胞膜を破壊し、細胞の体の構造を変化させて、機能停止に追い込みます。
こうなっては増殖もできませんので、菌が増えていくことはありません。以上の仕組みから、どうしても加工が施された表面上しか効果が発揮できないのです。
赤ちゃんには使えない?
免疫力のない赤ちゃんにこそ使いたくなっちゃいますが、これが意外にも、赤ちゃんへの使用は避けるべきとする声もあります。
少なからず金属や化学物質を使用して抗菌加工しているため、なんでも口に入れてしまう赤ちゃんには、良くないという考えですね。
滅菌、殺菌、除菌、静菌とは?
抗菌と似た言葉に、殺菌、滅菌、除菌などがありますが、
どれも菌を抑える、減らすような意味ですが、そのレベルが異なります。
【滅菌】
最も徹底的に菌を減らす方法で、基本的には対象物に付いている菌を完全にゼロにすることを指します。完全に除去された状態を「無菌」と言います。
しかし実際のところは、文字通りの完全ゼロにすることは困難であるため、滅菌する前の菌の数が、滅菌後に100万分の1になっていれば、滅菌完了と定義されています。
【殺菌】
滅菌と異なり「〇〇%の菌を排除したら殺菌完了」というような定義はなされていない為、有効性を保証するものではありません。
殺菌処理をした後、半分の菌が残っていたとしても、殺菌したと表現していいようで、極端な話、全体の1%程度しか殺菌されていなくても、「殺菌できた」ことになります。
【除菌】
対象のモノや空間から菌を減らすこと。どのくらい減らすのか、などの定義はありません。
【静菌】
菌を減らす能動的に減らすのではなく、増殖を阻止し菌を減らしていくこと。こちらも除菌同様に、決まった定義はありません。冷蔵庫で低温保存する場合や、乾燥させて長期保存することも静菌となります。
【減菌・消毒】
字が似ているので、間違いやすいですが、「減らす菌」と書いて減菌です。上記のは「滅ぼす菌」と書いて滅菌です。
対象のモノから、人体に害のないレベルまで菌を減らすこと。感染力をなくさせたり、その菌の持つ毒性を無毒化させることを言います。
最後に
これまで見てきたように、滅菌以外は、ハッキリとした定義がないことから、正直かなり曖昧なモノになっています。
実際、消毒スプレーなどの菌を減らす処理をしたとしても、どれくらい菌が減ったかなんてわかりませんので、本当に殺菌消毒できたのかを、あまり気にし過ぎる必要はないのかな、と思います。
著者紹介
月宮エナ
書店員、飲食店経営を経てブロガーに転身 生活に役立つ知識や方法、雑学といったものを人に説明することが好きなブロガー